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「逃亡「油山事件」戦犯告白録」小林 弘忠

昭和20年の終戦時、アメリカ人捕虜を斬首するという事件があった。「油山事件」である。この事件で上官の命により、斬首を行った一人の軍人が残した逃亡記を基に書かれた本です。

宣伝文句にあった「逃亡先の多治見市」というのにまず個人的に惹かれました。
多治見市は過去出張で何度か行ったことあるんだけど、あまりの寒さに風邪をひいて熱を出した思い出の場所。
そんな思い出プラスあまりよく知らないBC級戦犯の事が書かれた本と言う事で読んでみました。

当時23歳の軍人だった主人公は、GHQの追求から逃れるために家族と永遠の別れを告げ、名前を偽り夜行列車に乗り込みます。
「捕まったら死刑」は確実。しかし生き延びるために逃げる。
いざという時は、自決するためにトランクにピストルを隠して。

電車の中で、見知らぬ婦人に「どちらに行かれるんですか?」と問われて
反射的に「多治見です」と答えてしまう主人公。
夜明け前の多治見駅に降り立ち、途方に暮れるヒマもないまま
落ち着き先を探す。
多治見は言わずと知れた陶器の町。
陶器製造会社に「なんでもしますからここに置いて下さい」と頼み込んだところ
社長はしぶしぶOKを出す。
持ち前のマジメさで陶器の作り方をイチから覚え、雑用等なんでもこなす主人公は
次第にみんなに認められていく。
逃亡者であるが故、新聞で裁判の行方を読んでは自殺の念に駆られる。
「いや、生きるんだ」という気持ちと交互に毎日を過ごす。
そうして3年半が過ぎた時、元上官と背広を着た二人の男が
陶器製造会社に現れ、社長は「○○君、ちょっと」と本名で主人公を呼んだ・・・・

最終的なエンディングはここでは書きませんが
逃亡者である主人公の心の葛藤がよく書かれていて
退屈する事なくスラスラと読めました。

「戦時中」というのがいかに特殊な事なのか
平和に慣れてしまった世代にはなかなかよくわからない。
人が人を殺してもよい、なんて事は絶対にあってはならないとは思うんですが
上官の命にもし逆らって「殺せません」なんて言ってたら
たぶん抗命罪としてどんな目にあってたか・・・・

ああいう時というのは個人の意見なんて通らないんだろうなあ。

この小説、先日NHKドラマになってたみたいだけど
残念ながら見逃してしまいました。
また機会があれば見てみたいと思います。

戦時中の事なんてどうでもいいよ、って人も
一度読んで欲しい本です。
当時の言葉遣いは極力出てこないように書かれていて読みやすいです。


Published inノンフィクション

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