Skip to content

馳星周「殉教者」(旧題:エウスカディ)

久しぶりに馳氏の作品を読みました。
旧題は「エウスカディ」という名で発表されていた様ですが
文庫化にあたってどうやら改題されたようです。上巻だけで500P以上ある大作ですが、相変わらずのスピード感で
あっという間に読んでしまいました。

日本赤軍の活動家である主人公(1970年初頭)とその息子(2000年)の時代が交互に描かれていて、最初は面食らいますが登場人物が頭に入ってしまうと面白くなってきます。

とはいえ、日本赤軍から来たという設定はほんの少ししか生かされてなくて
たまに重信房子(と思われる)と電話で話したりする場面や、
自らの理想(世界革命)などを語ったりするのですけども、
あくまでキャラクターの一部分であって、期待してた程日本赤軍のお話が出てくるわけではありませんでした。

舞台はスペインのバスク地方、そこでテロ活動に従事するETAに出向(?)という形で、日本赤軍から派遣された主人公はテロ活動のサポート傍ら、組織内部の裏切り者捜しという役割を任命されます。
その中でETAの活動家の女性と恋に落ちて、子供が生まれる。

その子供は30年後、元柔道のオリンピックスペイン代表として生活しており、
元活動家である母が急に失踪してしまい、母を探すに当たって
結果的に母の過去を洗う旅に出ることに。
そして、過去を知られたらまずい人達が主人公の邪魔をしはじめる、というのが骨格。

現在と過去を行ったり来たりしながら、登場人物をうまく見せる手法のせいか
「こいつ誰や?」と頭の中でわからなくなる事がないので
ポンポンと読めてしまうのが、馳氏のなせる技ですね。

ただ、過去の作品と比べて状況説明の比率がグンと増えたのはちょっと寂しい気もします。
主人公がモノローグのように自分の気持ちを吐き出す場面が個人的にはすごく好きなのですが、この作品ではもしかしたら意図的に減らしているのかも知れません。

それこそ、僕個人的に興味がある学生運動時代の思考回路を吐露するような描写を期待してたのですが、そこまでの描写はなかったですね。

最後にたどり着く裏切り者の正体。
途中からなんとなくわかっていたものの悲しい結末でした。

「最後の最後に足を引っ張るのはいつも身内だ」
というのは大好きな漫画「迷走王ボーダー」内でのセリフですが、まさにその通りの結末。

読み終わった後のやりきれないこの気持ち。
馳ノワールファンなら分かって頂けるかと(笑)


Published in小説

Be First to Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA