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70年代のノスタルジー ― 岸和田少年愚連隊

年をとったせいなのか最近やたら昔の事を思い出す。
公園の入口に置かれていたドラム缶で何でもかんでも燃やしていた頃の風景。
冬の朝、集団登校の集合場所はそこに勝手に変更になっていた。
火が小さいとカバンの中のプリントなどを勝手に燃やしていたものである。
どんよりと曇った冬の空に舞い上がる黒い燃えかすをぼんやりと見つめる朝。
そんな頃、アニキが通っていた中学は校内暴力の風が吹き荒れていて、校舎の窓ガラスは8割以上は割れたままだった。
他校にとてもケンカの強い奴がいる、ってだけで血を燃やしてたアニキを見ながら「何がそんなに楽しいのかね」と冷めた目で見ていました。

そんな風景を思い出させてくれるのが井筒監督の「岸和田少年愚連隊」である。

1975年の岸和田が舞台のこの映画。
冒頭に出てくるバスに乗り込んでいる主人公チュンバの顔にはケンカで出来た傷があり、隣に心配そうに座るリョーコは「逮捕されるの?」とチュンバに聴く。
そこで流れ出すのがTレックスの「ゲット・イット・オン」。
この場面はラストシーンに使われてるシーンを冒頭に使う、というよくある手法。

そして、登場人物による大阪弁のやりとりが開始される。
この辺りのテンポ感は当時の吉本の若手芸人を起用したのは正解だったと思う。
大阪で生まれ育った自分が見て全然違和感ないのでやっぱりこれはネイティブでないと絶対に出ないでしょうね。

映画の内容はいたってシンプル。
どつかれたらどつきかえす、というのが延々繰り返されるだけ。
学校の先生も遠慮なくどつくどつく。
卒業式で生徒を意味もなく手当たり次第に殴りまくるシーンなどもあり、今では全国ニュースでしょうな(笑)
でも、そういう先生はあの頃普通におったのも事実やから困る(笑)

その中で展開されるドラマに華を添えるのが大人達の対応である。
散髪屋のおっさんもタクシーのおっさんもお好み焼き屋のおばはんもみんな悪ガキらと対等に話をしているのである。
特に主人公チュンバの母親役の秋野暢子さんの存在がピカイチ。
家庭裁判所の担当の前で、嘘泣きをカマしたり、リョーコに「別れた方がええで。アホンダラは苦労させる」と自分の息子と別れる事を勧めたりなど、大阪の「苦労しながらも気を張るオカン」を見事に演じているのである。
自分が子供の頃は確かにこんなオカンがいっぱいいてた気がする。
友達の家に遊びに行くと、オカンがコタツで寝てたりとか「なんか食って帰れ。遠慮するならもう家に来んでええ」と腹一杯食わされたりとか(笑)

そして物語の中盤でオカンはオジンとオトン、そして息子に愛想を尽かして家を出て行ってしまう。
ラストの大げんかの前にチュンバは一人で暮らすオカンの所に行くのだけれど、そこでの会話が素晴らしい。
少しだけ大人になったチュンバが、オカンからのお金を「オレ働いてるねん」と断り「(1人暮らし)がんばりや」と声をかけるシーンがもうたまらんのですよ。
このシーンが見たいがために、ケンカケンカである意味退屈な所のあるこの映画を見てしまうのだ。

この映画を見て「いいなあ」と思うのはきっと僕みたいな団塊ジュニア世代が一番下のラインだと思う。
あれからバブルが訪れて、価値観や生活スタイル、もっと小さな所で言うと近所づきあいも様変わりしてしまったからだ。

もう街の中では勝手にドラム缶で何でも燃やすような光景は見当たらない。
でも、そんな頃の想い出を持つ世代に人にこそ、この映画はバシッと響くんだろうなと思います。

今はAmazonプライム特典で何度でも見れますからお得ですよ。
45歳以上の大阪人でこの映画をまだ見てない人はぜひ一度ご覧になってはどうでしょう。
懐かしい「オカン」にきっと会えます(笑)


Published in映画

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